子どもと著作権のために、技術を壊してもいいのか
最近、「子どもを守るため」「著作権を守るため」という理由で、インターネットの技術そのものを制限しようという議論を目にする機会が増えました。
例えば、VPNを規制すべきだという意見や、オンラインサービスで年齢認証を義務付ける流れです。
私は、子どもの保護にも著作権保護にも反対ではありません。
むしろ、どちらも社会にとって必要なものだと思っています。
しかし、そのために技術そのものを制限する方向へ進むことには賛成できません。
技術を悪用する人ではなく、技術そのものを問題視するようになってしまえば、その影響を受けるのは犯罪者だけではありません。技術を正しく利用している何億人ものユーザーです。
この記事では、なぜ私がそう考えるのかを書いてみようと思います。
「目的が正しい」ことと「手段が正しい」ことは別
インターネットの規制は、とても反対しづらいテーマです。
「子どもを守るため」
「犯罪を減らすため」
「クリエイターを守るため」
どれも重要な目的だからです。
だからこそ、「反対する」というだけで、「子どもの安全より自由を優先するのか」と受け取られてしまうことがあります。
でも、私はそういう話ではないと思っています。
大事なのは、「何を守るか」ではなく、「どうやって守るか」です。
例えば、町で犯罪が起きるからといって、全国民の家に24時間監視カメラを設置するという案が出てきたら、多くの人は違和感を覚えるでしょう。
犯罪対策という目的は正しくても、その手段が適切かどうかは別問題です。
インターネットでも同じことが言えます。
子どもの保護や著作権保護は必要です。
しかし、そのためにインターネットを支えている技術そのものを弱めることが、本当に最善の方法なのかは議論されるべきです。
VPNは犯罪者のための技術ではない
最近、VPNが話題になると、「規制すべきではないか」という意見を見ることがあります。
確かに、VPNを利用して違法行為を行う人はいます。
しかし、それだけを見て「VPNは危険な技術だ」と考えるのは少し乱暴ではないでしょうか。
VPNはもともと、通信を安全に行うための技術です。
企業では、社員が外出先から社内ネットワークへ安全に接続するために使われています。
フリーランスやリモートワーカーも日常的に利用しています。
海外では、政府による検閲を回避し、自由に情報へアクセスするための重要な手段になっている国もあります。
公共Wi-Fiで通信内容を盗み見されないようにするためにVPNを利用する人もいます。
つまり、VPNは「悪いことをするための技術」ではありません。
安全な通信を実現するための基盤技術です。
もちろん、悪用されることはあります。
ですが、それはVPNだけではありません。
暗号化もそうです。
生成AIもそうです。
ドローンもそうです。
自動車だって犯罪に利用されることがあります。
新しい技術には必ず悪用する人が現れます。
だからといって、その技術自体を規制してしまうと、本来の利用者まで不利益を受けることになります。
私は、この点をもっと慎重に考えるべきだと思っています。
年齢認証は別の問題を抱えている
VPNとは少し性質が違いますが、年齢認証にも気になる点があります。
近年、オンラインサービスでは年齢認証を求める動きが広がっています。
Discordでも年齢確認の仕組みを世界的に導入する方針が発表され、ユーザーの間で大きな議論になりました。顔認証や身分証による確認、AIによる年齢推定などが導入される可能性が示され、プライバシーへの懸念も多く上がりました。
ここで勘違いしてほしくないのですが、私は「年齢確認なんて必要ない」と言いたいわけではありません。
未成年者が年齢制限のあるサービスへ簡単にアクセスできてしまう現状には課題があります。
何らかの対策は必要でしょう。
ただ、その対策が「すべての利用者が自分の身元を証明すること」であるならば、それはインターネットのあり方そのものを変えてしまう可能性があります。
インターネットは、現実社会とは少し違う空間です。
実名では話せないことを匿名で相談したり、政治的な意見を安心して発信したり、立場の弱い人が声を上げたりできる場所でもあります。
匿名性には確かに問題もあります。
誹謗中傷や違法行為に使われることもあります。
しかし、匿名性そのものを悪と考えるのは違うと思います。
匿名性は、悪用されることもある一方で、多くの人を守っている仕組みでもあるからです。
「規制すれば解決する」という考え方への違和感
私が最近気になっているのは、問題が起きるたびに「技術を制限すれば解決する」という方向へ議論が進みやすくなっていることです。
もちろん、規制が必要な場面はあります。
法律がなければ社会は成り立ちません。
しかし、規制には必ず副作用があります。
例えばEUでは、子どもの保護を目的とした年齢確認の仕組みを進めています。一方で、EU自身も「年齢だけを証明し、その他の個人情報は明かさない」という、プライバシーを重視した設計を目指しています。
つまり、制度を作る側も、「安全」と「プライバシー」の両立が難しいことを理解しているということです。
この問題には簡単な正解はありません。
だからこそ、「子どもを守るためだから仕方ない」で議論を終わらせるのではなく、その手段が本当に適切なのかを考え続ける必要があると私は思います。